Hei Tanaka プレゼンツ「列島は世界の雛形 〜あの世のザッパに教えたら なんて言うだろ?〜」

「Bar思春期でお話ししよう」12月号 松永良平(リズム&ペンシル)

「Bar思春期でお話ししよう」12月号 松永良平(リズム&ペンシル)

この旅、まだ始まったばかりだけど、もう右足を食べられちゃった人いるぞ・・・

2015年12月某日、Hei Tanakaの田中馨くんから「そろそろまたお話しましょう」と連絡があり、ふたたびBar思春期を訪れた。ちょうど16年1月14日、渋谷WWWで行われるライヴのチケットがソールドアウトしたという報せを聞いたところだった。

上石神井の駅から歩いて数分、住宅街の一角にある民家の戸を開けると、そこがBar思春期。先に着いていた馨くんがこっちを向いて「こんばんは」と言った。今日はどんな話が聞けるんだろう。

松永 (BGMを聴いて)お? ザッパだ。

Bar思春期マスター 今日のBGMはザッパです。

 こないだ、松永さんとHei Tanakaの最初の話をこの店でしたときは、まだ曲もほとんど固まってなくて、メモみたいなものが散乱してる状態でしたね。

松永 そうだった。今は? すこし進んだ?

 もうちょっと変わりました。このメンバーですごくよかったなとあらためて思ってるところです。

松永 今日はもうちょっと詳しく話を聞いていきたいんだけど、そもそも、Hei Tanakaの新しいメンバーはどう決めていったの?

 サックスを4、5人くらい入れたいアイデアもあったんですよ。結果3人になったけど。あだち(麗三郎)くんは、僕がサントラの仕事をしたときにお願いしてサックスを吹いてもらったことがあるんです。そのときから、またなにかあったらやりたいなと思ってたけど、忙しそうだからどうかなあと。

松永 あだちくんはやるでしょ。おもしろそうなことはやる人だから。

 黒須(遊)は中学からの同級生で、中学の頃は一番仲よかったくらいなんです。彼が今やってるバンド(RIDDIMATES)のフィールドは結構クラブ寄りなんだけど、「興味あったら一緒にやらない?」って声をかけてみたら「やりたい!」って返事をくれて。もうひとりは、トクマル(シューゴ)に相談したら推薦してくれたんです。「最近、サックスでいいと思った人いない?」って。そしたら「the act we actのサトゥーくんがよかったよ」って教えてくれたんです。僕はTHE ACTのライヴは見たことなかったけど、トクマルがいいって言うならいいんだろうなとは思ってて。そんなときに、サトゥーくんがTHE ACTをやめて東京に来て音楽をやるらしいと聞いて、それはもう超いいタイミングだと思って声かけて、「いいですよ」って返事をくれたんです。

松永 小鳥美術館の“館長”こと牧野(容也)くんがギターで参加することになったのは?

 ギターを誰にお願いするか悩んでたときに、この件でもトクマルに相談してて、「どんなギターが弾ける子がいいの?」って聞かれたんで、「ギターは理想をいえば館長なんだよね」って話をしてたんです。でも、館長も名古屋だし、そのときは冗談として話してたんですよ。ところが、そのあと館長と会ったときに「Hei Tanaka、一緒にやろうよ」って言ったら、「いいっすよ!」って即答で。しかも「じつは音楽をもっとやろうと思って仕事やめたんです」って。「マジで?」ってこっちがなっちゃいました(笑)。そしたら、サトゥーくんもすぐに東京には引っ越せないということで、そんなわけでHei Tanakaには館長とサトゥーくんという名古屋在住のメンバーが2人いることになったんです。

松永 なるほど。それにしても、みんなよく二つ返事でOKしたよね。3人編成時代のHei Tanakaでライヴは何回かやっていたけど、音源とかないじゃん。

 ね! 何を基準にOKしてくれたんだろう?(笑)

松永 馨くんがやる音楽だったら、“どうなるかわかんないけど、きっとおもしろいだろう”っていうのがある。とはいえ、口ではそれなりにこういうことだっていう説明はした?

 “Hei Tanakaというものを新しいメンバーでまた新しくやりたいんだけど、手伝ってくれない?”。それくらいです。それで、みんな返事は、「いいっすよ!」(笑)

松永 それ最高だね(笑)

 でも、唯一のオリジナル・メンバーである池ちゃん(池田俊彦)は、やるかどうかをちょっと悩んでたんですよ。

松永 そうなんだ。

 前はライヴの度に落ち込んでたんですよ。池ちゃん的には普段ドラムを叩いてるわけじゃないから、すごくがんばって叩いても自分的にすっきりしない状態だったみたいで。でも、池ちゃんのやってるバンド、T.V. not Januaryの本島くんが背中を押してくれたんですよ。本島くんはすごく口数が少ないんですけど、彼が池ちゃんに最近話した唯一の言葉が「Hei Tanakaは続けたほうがいい」だったらしくて(笑)。僕は池ちゃんのライヴのときの“サマ”だったり、ドラムが大好きだから、ぜんぜん問題ないんですけどね。

松永 今度はすっきりさせたらいいんだよ。

 そうですね。今度は仲間がいるから(笑)。前のときは、僕も周りが見えてなかったから。

松永 そういう言葉を聞いて思うのは、Hei Tanakaっていうのは、田中馨にとってのコーネリアス的なワンマン・ユニットなのか、それともみんながいることを前提にしたバンドなのか、ってことなんだけど。

 それはねえ、僕は断然バンドにしたくてやってるんです。今回、実際に曲ができていくうちに、「これはなにがおもしろいんだろう?」「なにが正解なんだろう?」って何回も自問自答してるんですけど、そのときに、僕がやろうとしてる音楽が唯一成立できる状況って、Hei Tanakaがバンドであること、仲間といることで、そこを信じてやるしかない、みたいな気持ちになってて。それが目標でもあるんですけどね。

松永 正解のない音楽をやろうとしてる。それは確かに信じられるなにかが必要だよね。

 今まで音楽をやってきた経験とか、音楽をやる仕組みとかがまったく通じないようなやり方をしているから、リハしてても「これがいったいどうなるんだろう?」って、みんなすごく不安がるんですよ。「どうなれば正解なのかわかんないけど、とりあえず馨くんから言われたことをやる」みたいな状態。

松永 ということは、最初のリハにはもう入ったんだ。

 まず東京組だけで入りました。デモは聞かせていたんですけど、曲で聴いても自分が何をしたらいいのか、みんなよくわかんないみたいで、サトゥーくんが書いてくれた譜面を見ながらやるという感じで。「このフレーズはどんな意味があるのか」とか「誰とつながってるのか」とか、そういうことがすごく見えずらい音楽なので、やってる側はすごく難しいと思うんです。

松永 へえ!

 演奏する側は譜面だけが信じられるもので、それが合ってるのか間違ってるのかはわからない。でも、目標としては、そこから始まって、みんなが最終的にはちゃんとつながってるというところまで行けたら、すごくいいなとは思ってます。

松永 どんな音楽になるのか、想像がつかない(笑)

 とりあえず、サックス3本が組んず解れつ入り乱れて、ドラムは僕の好きな、池ちゃんの立ち向かう様子で、とりあえず立ち向かってほしい、と。それをちゃんと音楽だったり、エンターティンメントにするのは、ベースとギターだったりするんだろうなとは思いつつ、そこはまだグレーゾーンにはしてます。

松永 今回は馨くんはプレイヤーとしてはベースに専念なんだ。

 そうです。あんまりいろんな楽器はやらず。

松永 なにかモデルになったような音楽はあるの? サン・ラーみたいな?

 サン・ラーとか、アーチー・シェップとか、アート・アンサンブル・オブ・シカゴとか、ですかね。あの表現というのは、おもしろいなと思ってはいるんです。それがもしかしたらキーなのかもしれない。やってて思うのは“秘境ツアー”だなって。4、50分のこのセットは秘境ツアーなのかもしれない。サン・ラーとかが連れてってくれるディープな世界よりも、もうちょっとライトな、観光者が行く秘境ツアーみたいな(笑)

松永 怖くて難解なフリー・ジャズにしたいわけじゃなく。

 アフリカ行ったり、南米行ったり、アジア行ったりする感覚をちょっと体験できるというか。

松永 でも、そのツアーの乗組員も、お約束っぽい安心感ではなく、本気で「このツアー大丈夫かな?」って思ったりもしてるという。そういう感じかな。

 現状、今みんな不安がってます(笑)。「メンバーとして参加を申し込んだけど、このツアー大丈夫かな?」って。

松永 (笑)

 でも、一回リハやっただけだけど、やっぱり黒須を誘っておいてよかったな、とか、あだちくんの感覚はすごく助かるなあ、とか、そういうのはありますね。実際、生で音を聴くと、すごくささいなことでも感動します。「ああ、こうなるんだ!」みたいな。

松永 おなじサックスでもそれぞれ性格が違うというのもおもしろいよね。

 あだちくんはいろいろ咀嚼したうえでの、その次の表現が得意な人で。今は咀嚼するのにまだ苦労してるみたいだけど(笑)。黒須は結構がっちりやるのが得意な人。佐藤くんは、結構変態感があるけど細かいし、譜面も作ってくれるし、いいメンバーだなと思いますね。

松永 これからまた名古屋組もリハに入ったら、もっと変わっていくだろうし。

 そうですね。みんなに「曲はできた?」って聞かれるんだけど、曲としては自分のなかでは前に進むものはできてるんですよ。あとは、これをみんなで煮詰められてない以上、「できた」と言っていいかどうか(笑)

松永 でもまあ、これは見る側の気持ちの持ちようで。僕らは結局どの時点のHei Tanakaを見ようとしてるのか? ってことだよね。「この秘境ツアー、どのへんまで行ってんのかな?」みたいな(笑)。僕からしたら、別に完成してなくていいし、秘境の入り口でもいい。「この旅、まだ始まったばかりだけど、もう右足を食べられちゃった人いるぞ」みたいなのでもいい、くらいの(笑)

 音源を作りたくなかったのも、そういう部分があったんです。完成図をイメージして作りたくなかった。1月14日のライヴのときも、自分が思ってもいなかった秘境に行っちゃってたというか、そういう自分を見たいなという欲求があるんです。どんなおもしろいものになるか、未知数でこわいですけど。

松永 それは見に来る人たちも期待してるだろうね。

 本当に、自分が先頭に立ってやることって、すごく個人的なことじゃないですか。「こんなのがおもしろいだろうな」と僕が勝手に思ってることをみんながこんなに手伝ってくれたり、ライヴもソールドアウトしたり。それって「あなたがおもしろがってることを見せて!」って言われてる気がして、すごくやり甲斐があることだし、「僕がひとりでおもしろがってることをみんなと共有していいんだ」っていう喜びもある。見せたときに「それがおもしろいの?」って言われるかもしれない怖さもあるんですけどね。でも、とりあえず「出国していいよ」っていうパスポートをもらった気分なんですよ。そういう気分は初めてだから、「ありがとう!」って言いたい気持ちです。

松永 なんだか圧倒的なものを見せてくれるだろう、って期待してます。

 音楽を始めてから、他の人のやってる音楽を見たり、自分が関わっていったりすると、すごくいろんなことを考えるんですよ。「なにがステージに立つときは正解なんだろう?」とか。

松永 Hei Tanakaの再始動にとって一番いいのは、馨くんが「やる」ってことを選択したことなんだから。しかもそれなりにリスクも背負って。退路を絶ったというほどではないけど、みんなも協力してくれて、ひとつの大きめのハードルを用意したってことに意義がある。

 あえて小さいところでやろうとか考えたりもしましたけどね。でも、もうそれじゃダメというか、「きみのそういうところにはもう飽きたよ」って、トクマルとかユミコちゃんも言ってくれたりして。

松永 あと何回くらいリハするの?

 僕に財力があれば、一ヶ月くらい前から全員のスケジュール押さえて練習したいくらいなんですけど。でも、今度(12月アタマ)、名古屋で全員で合宿するんです。

松永 それ、重要なトピックじゃない!

 青少年の家みたいな、音楽室のあるところで、一泊してやります。夜9時以降、その施設からは出られないんですけど。

松永 すごい! 軟禁状態!

 でも、9時以降は音も鳴らしちゃいけないんです。

松永 え? じゃあ、なにするの?(笑)

 まあ、交流会ですね(笑)。みんなでお風呂入ったり(笑)。

松永 まずは親睦を深めると(笑)。そりゃ、いいね! 交流会を経て、さらに秘境に足を踏み入れたHei Tanakaを期待してます! ところで、今日はこの店はずっとザッパが流れてるんですか?(笑)

Bar思春期マスター 今日は1日ザッパです! そう決めたんです!

Bar思春期マスター&Boojil

松永 あの世のザッパがこの会話も聞いている、と(笑)。そう言えば、こないだ出たザッパの1973年のライヴDVD(『ロキシー・ザ・ムーヴィー』)が最高なんだよね。馨くん、見るといいかもしれない。

 へえ!

松永 猛練習のたまものの超絶テクニックなんだけど、そこにかわいさやエロさもあって。

 いやあ、ザッパの魅力はそこですよね。超絶な技巧のことをやってるのに、すごくかわいい! かわいいおじさん!(笑)

松永 前のHei Tanakaにもかわいさはあったよ。聴く人をやりこめる威圧感じゃなくて。それはSAKEROCKもそうだったけど。

 たとえば人を笑わせたいと思ったときに、おちゃらけてたら人は笑うのかというと、それは違うじゃないですか。「かわいい」っていう感覚も、かわいい音楽をやることがかわいいんじゃなくて、何か違う方向に向かってるんだけどそこからあふれ出てくるものがかわいい、ということのほうが威力があるというか。

松永 「かわいいでしょ?」って言われても「かわいくねえよ!」ってなるもんね。「笑ってください」って単に言われても笑えない。でも、そう言ってる人のズボンのチャックが開いてたり、鼻毛が出てたりするのを発見したら、めちゃめちゃ笑える。それはいじわるな見方じゃなくて、意図しない間抜けさだし、愛すべき人間っぽさを見つけることだったりする。馨くんには、そういうかわいさはあるよ。

 自覚してるとかじゃないけど、そういうことをやりたい。人を愛するときに“かわいさ”ってぜったい僕の中には必要な要素だから。SAKEROCKをやってたときにASA-CHANGに言われたことですごくうれしかった言葉があって。「SAKEROCKはキュートだ」って言ってくれたんですよ。その“キュート”はいろんな取り方があると思うんです。ハマケンの立ち振る舞いがキュートだとか、僕らの雰囲気がキュートだとか、そういうわかりやすいところじゃなく、もっと深い意味での“キュート”を言ってくれてたんじゃないのかな、って思うんです。

松永 恥じらいとかね、人間くささとかも含めてのね。

 にじみ出るものとしての“キュート”というか。とにかく、みんなに「好きなようにしてみなさい」って言われてる以上、ちゃんと好きなようにしなくちゃダメだなと思ってるので!

松永 もうその次のライヴも決まったみたいだしね。

 はい! なので、1月14日のライヴが終わったら、またお話しましょう!

松永 じゃあ、2016年もまたBar思春期で!

 お会いしましょう!

「Bar思春期でお話ししよう」12月号 松永良平(リズム&ペンシル)

CONTENTS

列島は世界の雛形 Vol.1 チケット完売御礼!

列島は世界の雛形 Vol.1

2016.01.14 (木)渋谷 WWW

列島は世界の雛形 〜あの世のザッパに教えたら なんて言うだろ?〜 in大阪 チケット発売中!

列島は世界の雛形 〜あの世のザッパに教えたら なんて言うだろ?〜 in大阪

2016.02.20 (土) 心斎橋 Live Space CONPASS

列島は世界の雛形 〜あの世のザッパに教えたら なんて言うだろ?〜 in名古屋 チケット発売中!

列島は世界の雛形 〜あの世のザッパに教えたら なんて言うだろ?〜 in名古屋

2016.02.21 (日) 新栄 Live&lounge Vio

Hei tanaka メンバーQ&A

Hei tanaka メンバーQ&A

彼を知り 己を知れば 渋谷WWWだって怖くない

「Bar思春期でお話ししよう」10月号 松永良平(リズム&ペンシル)

「Bar思春期でお話ししよう」10月号 松永良平(リズム&ペンシル)

俺、Hei Tanakaで見事に負けたい